Priceのブログ

経済と進化論と人類

フリーランス vs サラリーマン論争から考える、キャリア投資戦略

4月になると新社会人に向けたメッセージでTwitterはてブが盛り上がり、新社会人なんてもう何年も前なのに、共感したりしなかったり、気が引き締まったりしますよね。

 

中でも盛り上がるのが、フリーランスないしは自由社会人を自称するリベラル派の方々の「入った会社が違うと思ったらすぐ辞めろ!」論

 

対してコンサバ派の方々の中にも一定声を上げる人はいて、「無責任な事を言うな!」と反論したりするからより盛り上がるんですよね。

 

結論から言うと、この意見の相違は彼らそれぞれの成功体験ないし失敗体験から来る、キャリア投資戦略の違いによるものだというのが今回お伝えしたい事です。

 

会社の寿命が人の人生より短い時代だとか、人の仕事がAIに置き換えられる、等の未来予測に対するポジションの違いも勿論あるでしょう。

また、コンサバ派の方々の中には単に日和見主義から抜け出せない方もいるし、リベラル派の中にも単にマウントとりたかったりポジショントークの方もいるでしょう。

 

今回は(双方の理解不足や悪意に出発点を置いた非生産的な議論になりそうなので)その点はさておき、時に感情的な議論までも巻き起こす過去の経験則に基づくキャリア観の相違から、キャリア投資戦略の考え方について書いてみたいと思います。

 

フリーランスの方々の成功体験

フリーランスの方々は何故、ダメなら会社を辞めろと考えるのでしょうか。シンプルには、会社をやめた事でキャリアが好転したという成功体験を持っているからです。

 

例えばインフルエンサーと呼ばれる方々の中でも特にトップ層の方々で言えば、多くの方は一度は会社勤めを経験し、また、独立前からないしは学生時代からブログやTwitter等での発信活動を行っています。

彼らは自らが積み上げたブログ記事やTwitterのフォロワー数、(匿名/実名問わず)ネット上の人格のブランドといった無形資産に、生業にできるだけの経済的価値がある事に気づいた訳ですね。

しかもそれらは会社というチャネルを使わなくても十分にワークする、ないしは会社組織にいる事でむしろ毀損される類のものだった訳です。

(逆に会社に所属している事をうまく使えている方もいて、これは本当にすごい)

 

また、デザイナーやエンジニアにもフリーランスの方は多いですが、彼らが培った技術力や経験も、一定以上の人脈さえあれば、会社というチャネルを必要としないものだったわけです。当然、インターネットにより人脈の希少価値が下がったという環境の変化もあります。

そうなれば、会社という存在はチャネルバリューが0に近いのに中抜きをする、無価値な代理店でしかないという考え方になるわけです。

 

サラリーマンの成功体験

サラリーマンの成功体験は違います。彼らには、なんやかんやで居心地が良いだけの信頼資産を社内で積み上げられたという成功体験があります。

 

こう書くと単に向上心が弱い人と言いたいみたいなので、もう少しちゃんと書くと、高いハードルにもフルコミットでチャレンジし、周囲の期待値を超え続け、それをきちんと評価してもらえた、という事になるかと思います。

 

私自身シードに近いスタートアップにいた事もありますが、どんな小さな組織にも人が3人以上集まれば、発言権の濃淡、信頼されている人/されていない人というのは出てきますし、その良し悪しはさておき、これはもうHuman Natureと呼べるほど根本的なものと感じます。

 

それを低コストで乗りこなせるだけのストレス耐性や認知能力、対人能力を持つ人にとっては、信頼資産は非常に投下資本(労力、ですかね)効率の良い投資と言えるでしょう。

変にプログラミングを勉強したりするより余程確実かつ早く、成果が出なくても年に1000万、1500万と貰えるチート級のアセットになる訳です。

※ここで言っているのは、経済的報酬の期待値とボラタリティを織り込んだ評価として効率が高い、という事であり、リスクを取るか取らないかという価値判断以前の問題という事です

 

また、会社が潰れたら資産価値なくなるじゃん、という意見は半分ごもっともですが、実は転職で成功している人やフリーランスにもこういった社内での信頼資産をテコに成功している人もいます。

というのも、結果として得られる「〇〇事業立ち上げ!」「××の案件を経験しました」といったトラックレコードが、個人の経験値/成果という社外で通用するアセットになるからです。

また、独立して最初の仕事は前職からもらったり、前職の紹介で仕事を得たりするのも良くある話です。

 

キャリア形成は、自身にアセットを積み上げるということ 

早々に汎用的なアセットを持った人の中には、20代でフリーランスになる方もいるでしょう。逆に、サラリーマンを長く続けてから独立する方もいますが、傾向としては営業力に長けていて仕事の進め方がうまく、きちんと結果を出してくれる方が多いです。

彼らがキャリアの中で何を積み上げていったか、という結果が、分かりやすく表れてくると感じます。

 

学生が社会人になった時点では、殆どの場合には経済的価値を生むアセットを何も持っていません。

それが、案件をこなす中でその道の専門家になったり、社内で信頼があるからこそエグゼキューションの推進力が出たりと、価値のある社会人に育っていくわけです。

 

当然、学生時代までに培った計数/言語能力や感性、対人能力がその土台にある事は間違いありません。この辺りのベースは20過ぎの学生も40前後の社会人も正直それほど変わらないので、変に謙虚になる必要はありません。

 

とはいえポテンシャルを信じていればいい訳ではなく、今やっている事で何が積みあがっているのか、それはどこでどんな価値を生むものなのかを確認しなければなりません。

 

企業は限られた経営資源(ヒト/モノ/カネ)を使って、工場を(どこに)作るのか、どんな人を雇うのか、バリューチェーンのどこを取りに行くのか検討しますよね。市場環境、競合、自社の現状のアセットを全て考慮し、どこに資源を投下する事が最効率かを求めるわけです。

 

同様に、個人としても、自身が持つ時間や体力、精神力といったリソースを使って、何を得るのが最効率なのか、きちんと検討するという発想自体が重要です。

※効率といっているのは勿論、金銭のみならず心理的報酬やワークライフバランスも含め、です。

 

最悪は何も積みあがらずただキャッシュフローを回している状態になる事、次に良くないのは積み上げる(積み上げたい)アセットを間違えているのにそれに気付いていない事です。

そんな事では市場をアウトパフォームする事などできませんよね。

 

キャリア投資戦略に定石はあれど、正解はない

上記のような意味でも、先達のキャリアストーリーを知るという事は非常に重要です。

それがなければ何をすればどんなアセットが手に入るのか、どんなアセットがどう生きるのか、皆目見当もつかないですから。

また、ただ聞くだけではなく、周囲の同僚や上司がなぜ、どうやってバリューを出せているのか、具に観察する事も一つです。

 

ただそれを知れば良いという訳では当然なく、これも経営戦略と同じで結果論的に垂直統合が強かったとか水平分業が良かったという話はあれど、今どうするかとは全く別次元の話です。

フリーランスvsサラリーマン論争にしても、どちらにも成功者もいれば不幸になっている人もいます。

結局のところ、これまでの人生経験から向き不向きや好き嫌い、労働市場やテクノロジーの未来予測、既に持っているアセットを元に、走りながら考え続けるしかない訳です。

 

さらにややこしいのは、先ほど”最効率”とさらっと流した部分に大きな価値判断が関わってくる事です。

プライベートとの兼ね合いのような話から、金融は虚業、事業をやってこそ本質的な価値を生み出せるんだ!といったようなイデオロギー的な話まで、あなたにとっての最効率がそもそも分からないですし。

やり投げ選手にプロになっても金にならんからやめて簿記勉強しろと言っても「せやな!簿記やるわ!」とはならないですし。

 

ただ、2つ確かな事があると思っています。

 

1つは、普通にやったら期待値はそんなに高くない、って事です。

一部上場企業の合計時価総額は、ここ30年、(景気変動を抜きにすれば)殆ど変わっていません。

全体が成長基調にあれば早い話が目をつぶって投資すればリターンがあったものが、残念ながらそのようなボーナスタイムがいつも来る訳では無いわけです。

サラリーマンとして頑張るにせよ、果たしてその会社の信頼資産は今後価値が上がるものなのか、という点は、よくよく考えた方が良いかと思います。フリーランスの方がスキルの陳腐化に危機感を持っているのと同様です。

 

2つめは、会社員だろうとフリーランスだろうと起業家だろうと、自分のキャリアを本気で考えられるのは究極自分だけ、って事です。

これは本当に残念ながら、人事や上司がどんなに人格者であろうと、相性、バックグラウンドの違い、能力や経験その他の要因で、自分にとってベストな選択肢や処遇を提示してくれる可能性は非常に低いです。

(自分の意思がきちんと伝われば、社内調整等のサポートをしてくれる方はたくさんいます!)

人事や上司の決定に身を任せるよりは、自身で考えた方向に持っていく事を考えた方が成功率は高いはずです。

 

当たり前の事ばっかり書いてすみません。長くなりましたが、以上です。